ルネサンス各論

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大事なものは高い所へ

アルノ川とフィレンツェ歴史地区

大事なものは高いところへ。人類太古のむかしから、だいたいそういうものだったのではないでしょうか。なぜか。水害があるから。

去年(2020年)10月の台風19号による被害も甚大でした。土砂崩れのほか、各地で河川の堤防が決壊し、多くの方々が亡くなりました。

都内でも荒川や隅田川が危険水位に達して肝を冷やしました。多摩川は一部で氾濫。地球温暖化の影響で、近年、豪雨の発生件数は増加傾向にあります。今年の秋も心配です。

フィレンツェでは1966年の晩秋にアルノ川が氾濫して大きな被害が生じました。

堤防を越えた水が歴史地区に流れ込み、商店・住宅が浸水。泥水はサンタ・マリア大聖堂(ドゥオーモ)前の広場にも押し寄せました。付近で時計店を営んでいた男性によると、浮遊物が衝突してショーウィンドウが割れ、商品はもとより、顧客から預かっていた修理中の時計まで流されてしまったそうです。

アルノ川に近く、歴史地区のなかでも低地に属していたサンタ・クローチェ教会一帯は、被害が一層甚大でした。チマブーエの「十字架のキリスト」が水に浸かり、塗料の大部分が剥がれ落ちてしまいました。人々はショックを受けました。

世界中に支援の輪が広がり、美術作品や建築物、貴重な文献・書籍を元に戻すための修復事業が根気強く行なわれました。

チマブーエの「十字架のキリスト」もかなりの程度まで修復され、国際的な支援への感謝の意を込めて世界各国への巡回展が実施されました。

修復されたチマブーエ「十字架のキリスト」(2007年撮影)

「十字架のキリスト」はいまもサンタ・クローチェ教会附属の美術館に展示されています。

十字架の背後にまわると、そこには巻き上げ式のワイヤーが設置されていて、非常時には水が迫る前に、高いところへ避難できるようになっていました。

大事なものは高い所へ。

今年の秋の台風にも、やっぱり警戒が必要です。